Column コラム

Vol.13【年末年始の長期休暇で対策すべき危機管理/2022年の危機事案の振り返り】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。

1 年末年始・長期休暇で対策すべき危機管理
・サイバーインシデント
・交通事故
・窃盗被害
・その他留意すべき事案

2 2022年に発生した危機事案から学ぶ、適切な危機管理・リスクマネジメントとは
・1月  東京都刺傷事件
・4月  北海道遊覧船事故
・4月  パワハラ防止法改正
・6月  侮辱罪厳罰化、改正刑法成立
・7月  奈良県銃撃事件
・8月  大手通信会社に関して全国で発生した通信障害
・9月  静岡県で発生した送迎バス事件
・9月  飲食店社長が不正競争防止法違反の疑い(営業秘密領得)
・10月  韓国雑踏事故
・12月  FIFAワールドカップカタール2022が開催
・その他、起こり得る様々なリスクを想定しておく

社内外での危機管理対策へのご参考としてご活用くださいますと幸いに存じます。


1 年末年始・長期休暇で対策すべき危機管理
年末年始などの長期休暇では人々の行動範囲が広くなり、行動時間も長くなります。日常と異なる行動パターンから生じる気の緩みから、大きな問題へと発展するリスクがこのような時期に潜んでいます。
これから年末年始を迎えるにあたり、身近に潜むアクシデントを未然に防ぐための事前対策を、弊社顧問である西岡敏成氏にお話しいただきました。

01. サイバーインシデント
長期休暇中に社内PCやデータを社員が持ち帰る場合、その扱いには細心の注意を払う必要があります。万が一紛失すると自社の機密情報や取引先重要な顧客情報の漏洩といったサイバーインシデントに繋がりかねません。

このようなリスクの対策としては、原則としてPCやデータを社外に持ち出すことを禁止とすることが望ましく、どうしても持ち出しが必要な場合は、社内規定や管理方法を定めて社員に遵守させる必要があります。また紛失が発生しやすい場所として忘年会などのお酒の席や、帰宅時の交通機関などが想定されます。
そのため、お酒の席にPCなどの機密情報を持って参加することを禁止するなどもひとつの有効な対策です。当たり前のことですが、連休へ入る前に自社社員に対して今一度、注意喚起を行うとともにあらかじめ定めている規定を破った場合の処分を、役職者から通達し危機が発生しないよう事前対策を講じましょう。

万が一、情報漏洩が起きてしまった場合は、社外に対して適切な対応を取れなければ企業としての信頼失墜に繋がります。被害を霰小限に抑えるためには初動対応が重要です。社員から紛失の連絡を受けたら、すぐに紛失場所の特定と警察への紛失届の提出をします。紛失したデータ内に取引先や顧客の情報があるかを確認し、関係各所に早急に報告しましょう。

その際には「事件発生からの一連の対応」「調査委員会の設置による原因究明」「社員教育などの再発防止策」を合わせて伝えることが肝心です。万が一、事件が発生してしまった場合には「嘘」「ごまかし」「隠蔽」を絶対に行わず、真摯な対応を行いましょう。

▽記録媒体紛失によるサイバーインシデントへの対応フロー

02. 交通事故
令和3年6月、千葉県八街市にて飲酒運転をしたトラックが小学生の列に突っ込む痛ましい死傷事故が発生しました。この事故を受けて2022年4月から事業所で使う社用車などの白ナンバー車もアルコール検知器によるチェックが義務化されました。

長期連休中は業務用車両を運転する機会は少ないものの、お酒を飲む機会が多くなるため社員に対して事故を起こさない・巻き込まれないための危機管理意識を持ってもらうように、下記の2項目を周知徹底することが大切です。

まず事故を100%防ぐのは不可能であるという前提に立った上で
•自己防衛(スタッドレスタイヤなど、適切な自動車部品管理等)
•危機予測(車の影から人が出てくる、脇を走る自転車が倒れ込んでくる等)
に基づく防衛運転の徹底を社員へ周知しましょう。

それでも万が一、社員が事故を起こしてしまった場合は、会社としてまず早急な事実確認を行いましょう。もし社員が身柄を確保された場合には勾留先の警察署を確認し、然るべき立場の社員を派遣します。重大事故の場合には社名が警察から公表されることもあるため、警察に社名公表の有無を確認し事後対応の方針を定めましょう。場合によっては会見を開く必要も出てきます。事前に報道対応などに備えた対応マニュアルの作成など、企業としての被害を最小限にするための手立てを検討することが望ましいです。

また社内に対して飲酒運転など行わないなどの注意喚起や処分方法を明確に打ち出すことで、労務管理や人事管理を適切に行っている会社であることを周知することにも繋がり、ステークホルダーからの信頼性を高めることができます。

03. 窃盗被害
長期休業期間は事務所が無人となり窃盗のリスクが高まります。事務所の防犯対策として「監視(監視カメラ・警備会社)」「抵抗(フラッシュセンサー・アラート・二重ロック)」「領域(警察官立ち寄りを示すステッカー等)」の3つのポイントを押さえて対策を講じましょう。特に「監視カメラ作動中」と書いているステッカーは、その事務所や地域の警戒心の高さを窃盗犯にアピールすることで犯罪行為への抑止力となります。

重要な書類や現金は一箇所に固めずに、分散させて保管することが鉄則ですが、これは社員の個人宅でも同じです。例えばやむを得ず社内PCやデータを自宅に持ち帰った場合、自宅では重要情報を分散保管するよう指示しましょう。貸金庫や貸倉庫の使用の奨励も一案です。

04. その他留意すべき事案
ここまで挙げてきた事案以外にも、屋外でうたた寝する人の持ち物を窃盗する「仮睡盗」被害や、タコ足配線やタバコの火の不始末による出火、フィッシング詐欺をはじめとする特殊詐欺被害など注意すべき事案が考えられます。

このような事態に巻き込まれないためにも、連休前に想定されるリスクとその対応策を社員に対してアナウンスすることで、事件・事故の防止に繋がります。また社内規定を従業員へ周知し、常日頃から危機管理への意識を高めておくことが必要です。


2 2022年に発生した危機事案から学ぶ、適切な危機管理・リスクマネジメントとは
2022年には、さまざまな不祥事や事件・事故が発生しました。様々な事案に対して危機管理の観点から振り返ることで今後の取り組みに活用しましょう。

01. 1月 東京都刺傷事件
これらの事象について、なぜ発生し、どのような対策を講じれば防げたのか、引き続き顧問西岡にお話を伺います。

大学入学共通テストが実筋された1月に当時10代の男性が都内大学の前で3人を包丁で切りつける事件が発生しました。この事件ではたまたま近くを通行していた会社員も被客に遭ったことから「通勤災害」という言葉を改めて認識させられる機会となりました。

通勤経路内で事件や車故に巻き込まれた場合は労働災害として扱われます。企業側は通勤途中に思いがけない災害に遭う可能性があることを社員へきちんとアナウンスすることが大切で、イヤホンや歩きスマホ等、周囲が確認しにくい状況をできるだけ避けるように促し、社員が自分で自分の身を守る意識づくりを根付かせていきましょう。

また会社側が労災認定を出さないことで損害賠償請求に発展した事例もあります。社員の通勤経路を詳細に記録しつつ、労災認定にはできる限り協力的な対応を取ることが望ましいです。

02. 4月 北海道遊覧船事故
4月には北海道にて一般観光客が乗った遊覧船が沈没し、多くの犠牲者・行方不明者を出しました。詳細は過去のメルマガをご参照ください。

03. 4月 パワハラ防止法改正
令和2年6月1日に旅行された「改正労働施策総合推進法」職場でのパワーハラスメント防止措置は、4月1日よりすべての中小企業にも義務化されました。

どのような行為がパワハラに該当するかの定義が個人の判断に委ねられる非常に曖昧な状況下では、様々な問題を誘発する恐れがあります。管理織に向けたコンプライアンス研修を実施することで、ハラスメント行為の定義について認識を統一することが重要です。

業務上、指導を行う際には指導する側、指導を受ける側の双方で指導内容を記録しておくことで、のちにトラブルが発生した際に解決の糸口となることがあります。さらにパワハラに関する相談窓口を社内もしくは社外に設置し、ハラスメント防止体制の構築にも取り組みましょう。

04. 6月 侮辱罪厳罰化、改正刑法成立
6月13日に「刑法等の一部を改正する法律」が成立し、7月7日より侮辱罪の法定刑の引上げが施行されました。詳細は過去のメルマガをご参照ください。

05. 7月 奈良県銃撃事件
7月では奈良県で参院選の街頭演説中に銃撃による事件が発生しました。当事件に関する詳細は過去のメルマガをご参照ください。

06. 8月 大手通信会社に関して全国で発生した通信障害
7月に発生した大手通信会社の通信障害では、データ通信障害で延べ765万人以上に影響が出ました。社会インフラとして被害は広範囲に及びましたが、同社の代表取締役社長が行った「危機管理広報」は社会的に一定の評価を得ています。

評価すべきポイントは事象発生から会見までのスピード感の速さが挙げられます。事象発生直後から起きてしまった事実を調査し、トップ自ら会見の場に出て事実の公表と今後の対策方針を発表した「初期対応の早さ」と「意思表明」が評価されました。
迅速な初動対応には事前に準備された対応策が不可欠です。例えば工場や支社などで出火が発生した際に本社でも広報対応ができるように建物の設計図など具体的で詳細な情報を事前に把握しておく体制を作っておくことが重要です。起こりうるトラブルを想定し、マスコミや社会の納得がいく対応により会社の信頼を保つことにつながります。

07. 9月 静岡県で発生した送迎バス事件
9月に静岡県の幼稚園で送迎バス内に園児が置き去りになる事件が発生しました。
この事件を受け政府は来年の4月より、幼稚園や保育所、認定こども園と特別支援学校へ送迎バスへの安全装置設置を義務付ける流れとなりました。
しかし装置を設置したからといって安心するのではなく、機械やシステムを上手に活用しながらチェックリストや点呼確認など、最後は人の目で必ず確認することが事故発生防止に繋がります。

08. 9月 飲食店社長が不正競争防止法違反の疑い(営業秘密領得)
9月、大手飲食店チェーン会社の社長が不正競争防止法違反容疑で逮捕されました。同業大手の情報を不正に入手したとの内容ですが、社長本人は犯罪という認識が稀薄であったとの見方もあり、誰もが知らず知らずの内に犯罪に加担してしまうリスクを再確認する事件でもあります。

重要情報の漏洩について社外へはもちろんのこと、社員同士であっても問題に発展する可能性があることも周知しておきましょう。社内配布物にも日頃から通し番号を振って確実に回収するなどの対策を講じ、情報管理への危機意識を高める工夫が必要です。

09. 10月 韓国雑踏事故
10月、韓国の都市部にてハロウィンイベントに集まった群衆がドミノ倒しとなり多くの犠牲者を出す事故が発生しました。事故についての詳細は過去のメルマガをご参照ください。

10. 12月 FIFAワールドカップ カタール2022が開催
11月20日~12月18日で開催されたFIFAワールドカップ カタール2022。日本でも大阪万博やIR等、世界規模のイベントが予定されています。

このような大規模イベントにおける危機管理対応として、一般治安とイベントに対する特別警備を並行で実施する必要があります。人員が足りない場合は、各都道府県県警へ特別派遣の協力をお願いすることも有効な手段となります。さらに会場を含めた周辺の警護体制や要人の動線計画は、あらゆる事態を想定し綿密に考える必要があります。

大型イベントの際にはテロや反社会勢力に対して個別に対策チームを結成することも大切です。その上で武装テロやバイオテロといった事案は個別具体的な被害想定をした上で、有事の現場へ緊急で派遣できる人材を予め確保しておくと良いでしょう。

また警備範囲にも注意が必要です。会場とその周辺は警備も手厚いことが予想できるため、そのさらに周辺の交通要所がターゲットとなることも十分に考えられます。駅のゴミ箱撤去やロッカーの使用停止措置を講じ事件発生への事前対策や、起こりうる事案を想定し万が一に備えた細やかな対策が危機管理には重要です。

11. その他、起こり得る様々なリスクを想定しておく !
長期休暇で気が緩みがちな時にこそ、サイバーインシデントや交通事故など、思いがけないアクシデントに遭遇してしまい、結果的に企業活動を脅かすことになる可能性も否定できません。
連休前に社員の危機管理意識を引き上げられないか、自社でできることを振り返ってみましょう。

そして2022年には実に様々な案件・事故が発生しました。改めて振り返ることで、自社に落とし込める事案が見つかったのではないでしょうか。教訓を風化させず、2023年のさらなる危機管理対策の奏功につなげていきましょう。


今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。


西岡 敏成
ジェイエスティー顧問
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授

ジェイエスティーには危機管理エキスパートが複数在籍しております。
ハラスメント関連の法改正対応はもちろん、個人情報保護や暴対法対策など、危機管理全般のご相談はジェイエスティーまで。

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