今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。
泥酔状態の相手方と性交等をした場合、どのような罪が成立するのか
相手の意思に反して性的な行為を強要することは、言うまでもなく性犯罪であり重大な人権侵害です。しかし、酒席が盛り上がり、酔った勢いで性交等に及んだ場合、相手の意思をどう確認するのでしょうか。取ったつもりの「同意」は、相手が泥酔している場合でも法的に有効であるとみなされるのでしょうか。今月号は、泥酔状態の相手と性交等をした場合に罪に問われるのかどうかについて、弊社顧問である西岡敏成氏に話をうかがいます。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。
1:抵触する可能性のある刑罰法規
相手が不同意を形成している(NOと思う)、表明している(NOと言う)、全うできない(NOを貫くことが難しい状況)状態で性交等に及ぶと、「不同意性交等罪(刑法177条)」に該当し、5年以上の有期懲役となる可能性があります。なお、対象となる行為は性交だけではありません。肛門性交・口腔性交、膣や肛門に身体の一部または物を挿入する行為等も含まれます。
不同意性交等罪と同じく、相手が不同意を形成、表明、全うできない状態でわいせつな行為をした場合は「不同意わいせつ罪(刑法176条)」に該当し、6か月以上10年以下の懲役が科される可能性があります。わいせつな行為とは、衣服を脱がせる、身体をさわる、自分の性器をさわらせる等が該当します。
公訴時効期間は、不同意性交等罪は15年、不同意わいせつ罪は12年です。つまり、この期間であれば、過去の出来事であっても遡って告訴される可能性があります。なお、配偶者やパートナーとの間でも成立します。
2:泥酔状態での同意は、法的に有効とみなされるのか
重要なポイントですが、泥酔している状態での同意は、法的には有効とみなされません。不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立する要件は、以下に挙げる8項目を原因として、不同意を形成、表明、全うできない状態にさせること、もしくはそのような状態にあることに乗じ、性交等やわいせつな行為をすることです。
・暴行または脅迫
・心身の障害
・アルコールまたは薬物の影響
・睡眠その他の意識不明瞭
・不意打ちなど、同意しない意思を形成、表明、全うできない
・予想と異なる事態と直面することによる恐怖、驚愕
・虐待による無力感や恐怖心などの心理的反応
・上司と部下、教師と生徒など、経済的または社会的な関係上、不利益が生じることを不安に思うこと
そのため、例えば「上司が部下に対して仕事上不利益を与えることを示唆し、性行為を行った」場合などは、その場では相手が同意していても、不同意性交等罪に問われることは十分にあり得ます。
なお、相手が「ホテルに行くことには同意したが、性行為の同意まではしていない」といったケースもあります。この場合「ホテルまで一緒に来たのだから同意したのだろう」と一方的にみなして性交等に及ぶと、性行為そのものに対する同意を得ていないので、同じく刑事罰の対象となり得ます。
性犯罪を犯した場合のリスクとは
LINEUP1では、泥酔した相手と性交等をした場合、抵触する恐れのある「不同意性交等罪」と「不同意わいせつ罪」の刑罰法規について詳しく見ていきました。LINEUP2では、性犯罪を犯した場合のリスクと、泥酔状態の相手と性交した際の対策、防止策に関して詳しくお伝えします。
1:逮捕、刑事罰のリスク
かつての強姦罪は被害者が告訴するかしないかを選択する「親告罪」とされていました。これは性犯罪の被害者が第三者の言葉や行動によってその苦痛を思い出す、いわゆるセカンドレイプを避けるためでした。
しかし、被害者の精神的・肉体的な負担が大きく、処罰されるべき性犯罪が処罰を免れているという批判があったため、現在の不同意性交等罪や不同意わいせつ罪は非親告罪になりました。つまり、被害者の告訴がなくても、場合によっては検察官が起訴できるようになったのです。すでに示談が成立しており、不起訴になっていても同様です。
起訴される可能性は、不同意性交等罪なら15年、不同意わいせつ罪なら12年の公訴時効期間が終了するまで続きます。どちらも罰金刑が定められていないため、不起訴処分とならない限り、起訴され有罪となれば有期拘禁刑が適用されます。もしも相手に何らかの怪我を負わせた場合、不同意性交等罪は「不同意性交等致傷罪」、不同意わいせつ罪は「不同意わいせつ等致傷罪」となり、公訴時効は20年に延びます。法改正以前に起きた事件であっても、非親告罪として扱われます。公訴時効が長く取られている理由は、被害者が自身の心身の傷と向き合い、被害を訴える決心がつくまでに長期間を要することが少なくないためです。
2:その他のリスク
不同意性交等罪・不同意わいせつ罪で逮捕されると、留置場・拘置所で長期間にわたって身柄を拘束されるのは、原則として避けられません。
逮捕された後、48時間以内に検察に送致され、勾留が必要と認められれば、10日間(さらに10日間の延長)身柄が拘束されることとなります。その後も刑事裁判に至るまで長期にわたり身柄の拘束は続き、判決においても実刑の可能性が高いでしょう。その間、出社はもちろん、帰宅したり、スマートフォンで家族や会社に連絡を取ったりすることなども一切できません。
そのため、仮に不起訴処分になったとしても、社会的信用に深刻な影響を及ぼします。離婚や親権の喪失、懲戒免職などの恐れも否定できません。また、インターネット上で拡散され、友人や知人からの疎遠や差別、偏見の対象となる恐れもあります。なお、未遂犯だったとしても、同じく刑事罰の対象となり得ます。
さらに、被害者から損害賠償請求があった場合、慰謝料をはじめ、治療費、通院費、逸失利益など、多額の賠償金を支払う義務が発生することもあります。
性犯罪は再犯率が高い犯罪のひとつです。性犯罪を犯したことで罪悪感や自己嫌悪などのネガティブな感情に苛まれ、性行為によって発散しようとする悪循環が生まれるケースもあります。
このように、性犯罪であると認定された場合、加害者の社会的、経済的、精神的リスクは計り知れません。
泥酔状態の相手方と性交した場合の対策と防止策
LINEUP2では不同意性交等罪や不同意わいせつ罪などに抵触した場合のリスクについて詳しく見てきました。逮捕・刑事罰による家庭崩壊や懲戒免職、高額賠償など、加害者になった場合にはかなり深刻な状況に陥ります。LINEUP3では、意図せず性犯罪の加害者となるリスクを下げるための対策に関して、詳しくお伝えします。
飲酒の上で性行為などに及んでも、双方が合意していれば基本的には問題ありません。ただし、合意の取り方が不適切であったり、相手が意思表明をすることが困難であったりした場合などは、自分自身にそういったつもりがなくてもレイプだと捉えられ、相手の心身にダメージを残したとして、被害届を提出されて最終的に刑事責任を問われる恐れもあります。
1:対策
前提として、合意があったと反論しても、相手方が泥酔していて前後不覚だったと主張すれば、写真や動画などの証拠がない限り、それを覆すことは困難です。
そのため、合意があったと反論する場合は、合意があったと誰もが客観的に判断できる証拠を、できるだけ多く残しておき、細かい事実を積み上げておかないと不十分です。
例えば、双方の年齢や関係性、過去の性行為、性行為をした経緯と場所・時間などをまとめておきます。性行為後の相手への対応、別れた直後のメッセージをはじめ、ホテルで一緒に飲食をした、映画などを鑑賞した、ホテルの室内で楽しそうに写真を撮った、翌朝一緒に食事をしたなどのやり取りが残っており、矛盾がなければ双方の関係性などを踏まえて、相手方の主張を覆すことも可能になるかもしれません。
2:防止策
そもそも泥酔している相手と性交などを行うのは、大きなリスクを伴います。自分では合意があったと思っていても、相手は泥酔しているため意識が朦朧としており、不同意を表明できない状態であるかもしれません。またはそう主張するかもしれません。そういった場合に性行為をすると、後に刑事責任に問われる恐れが高まります。いくら合意があったと主張しても、相手方の言葉が不明瞭であったりした場合には、同意があったとは認められません。また、ごく当然のことですが、双方同意のもとホテルに行っても、相手方が途中で気分が悪くなったり、嫌がる素振りを見せたり、拒否したりする場合には、すぐに性交を止めることが大切です。
相手が18歳未満であれば、児童福祉法や児童買春・児童ポルノ禁止法に違反する恐れも非常に高くなります。たとえ相手が成人だと主張していても、自分との年齢差が大きい場合は特に、相手方の年齢を確認することが重要です。羽目を外しやすい地方への出張で、デリバリーヘルスなどを利用した場合、悪質業者によるハニートラップにも十分注意する必要があります。告訴をちらつかせ示談という名目で、検査料、休業補償、慰謝料など多額の金銭を要求されることもあり得ます。
相手方が、人間関係のトラブルや嫉妬、怒りの報復目的などで虚偽の被害届を提出した場合、それを客観的に証明できるのであれば、虚偽告訴罪で反対に告訴することなども可能です。その際には、まず弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けてください。
まとめ
泥酔していてNOを表明できない状態の相手と性行為等に及ぶことは、刑事罰が下される恐れが高い性犯罪です。一緒にホテルに入っても性行為等に対する同意がなければ、同じく処罰の対象となり得ます。自分では「同意を取ったから問題ない」と思っていても、相手は立場上拒めなかったり、恐怖によって表面上はフレンドリーに接していたりしただけかもしれません。その場合、相手の心身を傷つけ、自分自身にも大きなペナルティが科されます。泥酔している状態での性行為等は避けるのが、相手と自分自身を守る最も確実な方法です。飲酒の上での性行為は、加害者も被害者も大きなリスクを伴います。
相手からの同意が明確でない場合の性行為は絶対に許されないことは言うまでもありませんが、過去にはこのような状況でも問題視されにくい時代もありました。性犯罪に対する社会的な認識が厳しくなっている現代で、相手の自由意志と人権を尊重することが不可欠であることを社内外問わず明確に理解し、共有する必要があります。