Column コラム

Vol.36【闇バイトに巻き込まれないために~企業と個人の防衛策】

はじめに

闇バイトの勧誘イメージ

最近、連日報道されている連続強盗事件に代表される闇バイトに関連した犯罪が社会問題となっています。特に若者や経済的に困窮している人々がターゲットとなり、SNSや掲示板を通じて勧誘され加害者として巻き込まれるケースが増加しています。2024年10月には、SNSで「副業あります」などの文言を使い、闇バイトを募集して約1億円をだまし取ったとされる指示役の男が逮捕されました。このような事件の首謀者は、巧妙な手口で若者を引き込み、言葉巧みに犯罪に加担させるのです。

闇バイトの勧誘は、高額な日給を提供して興味を引きつけるのが特徴です。最初は「コールセンターの仕事」など、安全そうな仕事内容を提示し、警戒心を和らげます。しかし、その後、秘匿性の高いアプリに誘導し、個人情報の提供を要求します。そして、一旦個人情報を入手すると、態度が急変し、脅迫を用いて犯罪行為に加担させる手口が一般的です。このような手口により、被害者は逃げられない状況に追い込まれます。

企業としては、従業員が闇バイトに巻き込まれないようにするための対策が求められます。教育と啓発活動を通じて、闇バイトの危険性や違法性について従業員に理解を深めさせることが重要です。また、従業員が経済的困窮に陥った時などに気軽に相談できる環境を整えることも効果的です。一方、個人としても注意が必要です。個人情報を慎重に扱い、SNSでの不必要な情報発信も控え、プライバシー設定を見直すことで、情報の漏洩を防ぐことができます。さらに、企業だけではなく地域社会全体で防犯意識を高め、近隣住民との連携を強化することも、闇バイトによる犯罪被害を未然に防ぐために欠かせません。

このコラムでは、企業と個人が闇バイトに巻き込まれないための具体的な防衛策について詳しく解説します。


1 闇バイトを操る匿流の実態

(1) トクリュウ(匿流)とは

トクリュウとは、匿名・流動型犯罪グループ(略称:匿流トクリュウ)のことで、2023年7月に警察庁が定義した組織犯罪の類型です。具体的には「SNSを通じて募集する闇バイトなど緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団」を指します。暴力団や準暴力団との関連も指摘されることがありますが、多くの場合、従来の反社会的勢力とは異なり、統制がなく、勢いに任せて犯行に及ぶ傾向がみられます。

(2) トクリュウの特徴

自分たちでグループ名を名乗らずに、匿名性の高いSNSで実行犯を集める手口により、特殊詐欺等を広域的に敢行します。

ア 流動的な結びつき:

実行役は多くの場合使い捨てられます。犯行ごとに実行メンバーを入れ替え、指示役も役割ごとに異なるグループから加わっています。また、犯行に関与する者同士は「ルフィ」などハンドルネームで呼び合い、お互い本名や詳細な情報を知らないため、警察も関係性をつかみづらいのが現状です。

イ 匿名性の高い通信手段の利用:

通信アプリは端末でメッセージを削除してもサーバーに履歴が残りますが、トクリュウの場合は、匿名性の高いシグナルなどのアプリに誘導されるため、暗号化され、経由するサーバーの所在もつかみづらく、警察の裏付け捜査も難航しています。

ウ 首謀者の特定が難しい:

暴力団のようなピラミッドを持たないため、指揮系統が曖昧で、首謀者を特定できず、犯罪の全体像を解明することも困難な状況になっています。

(3) トクリュウの狙い

運転免許証などの身分証明書を送付させることで個人情報を取得し、これを「弱み」として握ります。そのあと、逃げると危害を加えるなどと脅して、犯罪に加担させます。最終的に、捕まった場合には実行役を「トカゲのしっぽ切り」のように切り捨て、組織の実態を隠そうとする狙いがあります。

【注意】闇バイトの勧誘の特徴

  • 「日給3万円〜」など、異常に高額な報酬を提示
  • 「身分証明書の提出」を必須条件とする
  • 「簡単な仕事」「誰でもできる」と強調する
  • 「即日払い」「現金手渡し」を強調する
  • 具体的な仕事内容を明かさない

2 情報収集と犯行の手口

匿流の組織構造イメージ

(1) 情報収集

犯行の対象となるターゲットを見つけるためにさまざまな情報収集手段を駆使します。以下に代表的な方法を詳しく説明します。

ア ソーシャルメディア

SNSは、ターゲットの情報を収集するための主要な手段です。X(旧Twitter)、Instagramなどのプラットフォームで公開されている個人情報や投稿をチェックし、旅行中で家を留守にしていることを示す投稿や、高価な物品を自慢する写真などがターゲット選定の手がかりとなります。SNSでの公開情報をもとに、生活パターンや居住地を特定し、犯行計画を立てることができます。

イ 公共の記録とデータベース

トクリュウは、公共の記録やデータベースを利用してターゲットの情報を収集します。例えば、不動産登記簿や電話帳、選挙人名簿などから、住所や電話番号、家族構成などの情報を得ることができます。これらの情報を組み合わせることで、ターゲットの生活状況や経済状況を把握し、犯行のタイミングを計ることができます。

ウ 物理的な監視

物理的な監視も、ターゲットの情報収集に利用されます。ターゲットの家の周辺を観察し、住人の出入りや駐車している車種、生活パターンを把握します。例えば、郵便物が溜まっている、庭が手入れされていないなど、留守がちであることを示すサインを確認します。また、夜間に家の明かりが消えている時間帯をチェックし、犯行のタイミングを見計らいます。

エ 詐欺的なアンケートや調査

アンケートや調査を装ってターゲットの個人情報を収集することもあります。例えば、電話やインターネットを通じて「市場調査」や「顧客満足度調査」と称して、住所や家族構成、収入などの情報を聞き出します。これにより、ターゲットの経済状況や生活パターンを把握し、犯行計画に利用します。

(2) 犯行の手口

闇バイトの犯行手口は多岐にわたりますが、以下が主要な手口です。

ア 強盗

闇バイトの中でも特に危険なケースです。犯行グループは、ターゲットとなる店舗や個人宅を事前に調査し、計画的に犯行を実行します。犯行時には武器を用いて脅迫し、現金や貴重品を奪います。最近では、住人への暴行や拘束、最悪の場合には命を奪うなど、凶悪化する傾向が見られます。

イ 詐欺

被害者を騙して金銭や個人情報を不正に取得する手口です。例えば、オレオレ詐欺や振り込め詐欺の電話をかけたり、メールを送信したりします。また被害者のところに出向く現金の受け取り役「受け子」や、不正に得た金銭を引き出す役「出し子」が関与するケースがあります。

ウ 薬物の運搬

違法薬物を国内外に運ぶ手口です。運び屋として雇われた者は、薬物を体内に隠したり、荷物に紛れ込ませたりして運搬します。

エ 個人情報の盗難

個人情報の盗難は、他人の個人情報を不正に取得し、悪用する手口です。例えば、フィッシング詐欺やスキミングを使ってクレジットカード情報を盗んで、不正購入に利用したり、個人情報を闇市場で売買することもあります。

オ その他

ホストクラブでホストが、女性客に高額な飲食代などを請求して借金を負わせ、後払いにして、期日までに支払ってもらうという「売掛金」制度がとられている店舗があります。また、「青伝票」といって詳細が記載されず請求額だけ示されることがあります。そして、売掛金が支払えない場合には、売春などを強要します。このような悪質な手口には、トクリュウがホストクラブと連携していて、売掛金の回収を持ち掛けているケースがあります。

【事例】闇バイト被害の実例

大学生のAさん(20歳)は、SNSで「日給3万円、身分証明書のみで即採用」という広告を見て連絡。最初は「荷物の配送」と説明されたが、実際は強盗の実行役として指示を受けた。身分証を送ってしまったAさんは、「逃げたら家族に危害を加える」と脅され、犯行に加担。結果、逮捕され、大学を中退することになった。


3 被害に遭わないための対策

被害に合わないために

(1)従業員の経済的支援

経済的な困窮が闇バイトに関与する一因となることが多いため、従業員が多額の借金をしていないか、身なりや食事が貧相になるなど困窮した生活を送っていないか、など変化に気づくことが重要です。従業員に声かけを行い、経済的支援が必要な場合は、緊急時の貸付制度や、生活費の補助、福利厚生の充実などを通じて、従業員が経済的に安定した生活を送れるよう支援することもひとつです。これにより、従業員が闇バイトに頼らずに済む環境を整えることができます。

(2)教育と啓発活動

従業員に対して、闇バイトの危険性や違法性についての教育を徹底することが重要です。定期的な研修やセミナーを通じて、闇バイトに関与することで法的な制裁を受けるリスクや、社会的な信用を失う可能性について理解を深めさせます。また従業員が経済的な悩みなどを気軽に相談できる窓口を設置し、従業員が闇バイトに巻き込まれる前に適切なアドバイスを行うことも重要です。

(3)個人情報を慎重に扱う

個人情報を安易に提供させないようにしましょう。特に、電話やメールでのアンケートや調査に対しては慎重に対応し、必要以上の情報を提供しないことが重要です。また、SNSに住所や電話番号、勤務先などの個人情報を公開したり、運転免許証などの身分証明となるものを安易に送信したり、旅行中であることを示す投稿や、高価な物品を自慢する写真などを投稿することで、トクリュウのターゲットとなる手がかりになります。

(4)事務所や自宅のセキュリティ対策を強化する

闇バイトによる強盗被害に遭わないために、事務所や自宅のセキュリティ対策を強化しましょう。事務所出入口、自宅玄関や窓には頑丈な鍵を取り付け、防犯カメラやセキュリティシステムを導入することが重要です。また、夜間や不在時には必ず施錠を確認し、事務所においては防犯灯や侵入警報を活用し、自宅においては留守を示す郵便物の放置を避けましょう。

また事務所や自宅の外から見える場所に高価な物品を置かないようにしましょう。例えば、外から見えるところにパソコンや家電製品を置いたり、駐車した高級社用車を出入り自由な場所に駐車しておくと、犯罪者に目を付けられる可能性があります。カーテンやブラインドで室内が見えないようにし、シャッター付の駐車場を活用することも有効です。

(5)不審者に警戒する

闇バイトによる強盗を敢行する前には、事前調査を行うことがしばしばあります。宅配業者を装った訪問、又は見知らぬ人物が家の周りをうろついている場合や、不審な車が停まっている場合は、すぐに警察に通報することが大切です。また、訪問者が来た場合は、ドアチェーンをかけた状態で対応し、身分証明書の提示を求めることも有効です。

(6)防犯意識の向上

地域全体で防犯意識を高め、近所で不審な人物を見かけた場合は、すぐに近隣住民、近隣企業に知らせることで、地域全体で情報を共有し警戒を強化することができます。また、地域の防犯パトロールに参加するなど、地域の安全を守る防犯意識を高めることが重要です。

(7)従業員が闇バイトに巻き込まれてしまった場合

ア 事実確認と状況把握

いつ、どので、誰から、どのような経緯で接触があったのか、現在どのような状況にあるのか情報を収集し、SNSメッセージ、通話履歴などの記録を保全するよう指示します。従業員の心身の安全を最優先に確保し、脅迫等を受けている場合は、早急に警察に連絡し、隔離や保護措置を検討します。

イ 関係機関への連絡と従業員への支援

脅迫、強要を受けているなど、事件性が疑われる場合は、早期に警察への相談、通報を行い、法的なアドバイスや今後の対応について、弁護士の相談を行うとともに、従業員のメンタルヘルスに関して、カウンセラーや産業医による精神的なケアを行うなど、適切な支援体制を構築します。

ウ 社内での対応

相談窓口、担当部署を設置し対応に当たるとともに、秘密保持に徹底し、プライバシーの保護に最大限配慮します。

就業規則に基づいた適切な対応を行うとともに、今回の事態を教訓とし、再発防止のための教育、啓発活動の見直しや強化を行います。

【対策チェックリスト】企業が実施すべき闇バイト対策

  • 従業員向け定期的な啓発セミナーの実施
  • 経済的支援制度の整備(緊急貸付制度など)
  • 相談窓口の設置と周知
  • オフィスセキュリティの強化
  • 従業員の異変に気づくための管理職研修
  • 警察や専門機関との連携体制の構築

まとめ

闇バイトの実態とその危険性について理解を深めることは、企業や個人が犯罪に巻き込まれないために非常に重要なことです。闇バイトは、高額な報酬を掲げて犯罪行為へ誘導する危険な手口です。一度関与すると、個人情報を利用され脅迫を受けるリスクがあり、抜け出すことが困難になります。法的制裁や社会的信用の喪失といった重大な結果をもたらす可能性が高いです。特に若者や経済的に困窮している人々が、SNSや掲示板、ダークウェブを通じて勧誘されターゲットになることが多いです。

企業としては、従業員が闇バイトに関与しないようにするために、教育と啓発活動を強化し、相談しやすい環境や体制を整えることが重要です。個人としても、個人情報を慎重に扱い、不審な連絡には警戒心を持たせることが大切です。

企業は、闇バイトの危険性など情報発信を行い、従業員に闇バイトに対する危機感を持たせ、闇バイトに関与したり、闇バイトの被害に遭わないよう、安全で健全な生活環境を維持するようサポートすることが重要です。

お気軽にご相談・お問い合わせください