h1>Vol.43【自動車盗難の最前線/巧妙化する犯罪組織から「資産」を守り抜く】

2026年現在、日本国内の自動車盗難は、国際犯罪組織による「高度なビジネス」へと変貌しています。警察庁の最新統計によれば、認知件数は依然として高止まりし、1台あたりの被害額は上昇傾向にあります。背景には、世界的な日本車需要の過熱と、供給網の混乱による中古車価格の高騰があります。窃盗団にとって、日本車は「確実に高値で換金できる超優良商品」なのです。
特に深刻なのは、手口のデジタル化です。かつてのような物理的な破壊ではなく、現在は「キーエミュレーター(通称:ゲームボーイ)」などの特殊機器を用い、わずか数十秒で純正セキュリティを無力化して持ち去る手法が主流です。中小企業にとって、車両は営業や物流を支える重要な経営資産であり、その損失は業務停止や信用失墜に直結します。もはや「鍵をかけているから安心」という常識は通用しません。
本コラムでは、最新の犯罪実態を解明し、経営者が今すぐ講じるべき「資産防衛戦略」を提言します。「まさか自社が」という油断を排除し、強固な防衛体制を構築するための指針としてご活用ください。
1 なぜ「日本車」が狙われるのか
日本車が狙われるのは、偶然ではありません。そこには明確な「経済的合理性」が存在します。
(1)圧倒的な信頼性と「ジャパン・ブランド」の威力
日本車は過酷な環境下でも故障しにくく、長持ちするという信頼が世界中で確立されています。特に日本の「車検制度」により、中古車であっても整備が行き届いている車両は、海外市場で非常に高いプレミアムが付きます。走行距離が10万キロを超えていても、海外では「新車に近い」と評価されることすら珍しくありません。
(2)多様な海外需要と経済情勢
地域ごとの需要特性と、国際的な経済情勢が盗難を加速させています。
ア 中東・ロシア
富裕層によるレクサスLXやランドクルーザー等の高級SUV需要は依然として旺盛です。特にロシアへの輸出規制の影響で、闇市場での日本車価値が高騰しています。
イ アフリカ・東南アジア
悪路に強く耐久性が高いハイエースや軽トラックは、生活の足として重宝され、「即現金化」できる商品として狙われています。
(3)供給不足が招く「盗難車市場」の活性化
半導体不足の問題は緩和傾向にあるものの、一部の人気車種では依然として納期待ちが発生しています。この「今すぐ手に入らない」という飢餓感が、盗難車をパーツ単位に解体して輸出する「ニコイチ(複数の車から1台を作る)」や「ノックダウン輸出」の需要を支える皮肉な結果となっています。

2 統計で見る「狙われる車」と「狙われる地域」
最新のデータは、犯行が計画的かつ地理的に偏っていることを示唆しています。
(1)都道府県別被害の傾向
被害は特定の「輸出インフラ」に近い地域に集中しています。特定の府県だけで全国の被害の約半数を占めるケースもあり、警戒が必要です。
ア 被害集中エリアの特徴
・愛知県:トヨタのお膝元であり、名古屋港という巨大な輸出門戸がある。
・関東圏(埼玉・千葉・茨城・神奈川):ヤード(解体施設)を確保しやすい平地が多く、港(横浜・千葉・成田)へのアクセスが良い。また、都心からの逃走経路が豊富である。
(2)狙われる「魔の時間帯」と「脆弱な場所」
犯行グループは、効率的に犯行を行える条件を熟知しています。
ア 時間帯
被害の約59.3%は深夜(22時)から翌朝(6時)にかけて発生しています。人目が少なくなる時間帯が狙われます。
イ 場所と事前調査
死角の多い月極駐車場、監視カメラのない道路沿いの一軒家などが狙われます。また、Googleストリートビューなどで事前に「下見」を行い、逃走ルートまでシミュレーションする徹底ぶりが目立ちます。
(3)被害車種ランキングの固定化
ランドクルーザー、プリウス、アルファード、レクサスLX/RXが上位を独占する傾向は変わりません。これらに加え、近年はハイエースや、軽トラック(キャリイ等)の被害も増えており、ビジネスユースの車両も「安全圏」ではありません。
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3 犯罪グループの実態と進化する「ハイテク」手口
現代の窃盗団は、もはや単なる「泥棒」ではなく、高度な知識を持った「技術者集団」です。
(1)役割分業化された「窃盗シンジケート」
犯行は徹底したピラミッド型の組織で行われます。
ア 調査役
現地調査やネットでの物色、GPSタグの設置などを行い、ターゲットを選定します。
イ 実行役
特殊機器を使い、数十秒で解錠・始動させる専門技術者です。
ウ 運搬・解体・流通役
盗難車を「ヤード」へ運び、車体番号を偽造、またはバラバラに解体します。最終的には書類を偽造し、正規の中古部品や車両として海外へ輸出します。
(2)電子的手口の変遷:リレーアタックから「ゲームボーイ」へ
自動車メーカーのセキュリティ強化と、窃盗団のいたちごっこが続いています。
ア リレーアタック(2016年〜)
スマートキーの電波を増幅して解錠する手口。節電モードや電波遮断ケースでの対策が有効でした。
イ CANインベーダー(2018年〜)
バンパー付近の配線から車両の制御システム(CAN)に直接侵入し、解錠・始動させる手口です。
ウ キーエミュレーター(最新:通称ゲームボーイ)
現在最も警戒すべき手口です。本来は鍵を紛失した際のスペアキー作成機を悪用したもので、1台で複数の車種に対応します。純正キーと全く同じ信号を発信してエンジンを始動させるため、車両側は「正規の鍵」と誤認してしまいます。
4 2026年推奨の「多層防御」と事後対応
ハイテク化した犯罪に対し、もはや単一の対策では防げません。「多層防御」と「迅速な事後対応」が必須です。
(1)犯行を断念させる「多層防御」
ア 物理対策(時間を稼ぐ)
ハンドルロック、タイヤロック、ブレーキペダルロックなどを使用します。これらは物理的に運転を不可能にするだけでなく、「この車を盗むのは面倒だ」と思わせる視覚的抑止力になります。
イ デジタル対策(システムを守る)
最新のデジタルイモビライザー(IGLA等)や、GPS追跡サービスの導入が有効です。特に部外者がエンジンを始動できないようにする後付けのイモビライザーは、ゲームボーイ対策として効果を発揮します。
ウ 環境対策(隙を見せない)
駐車時は左側を壁に寄せて作業スペースを消す、センサーライトや防犯カメラを設置するなど、犯行を行いにくい環境を作ります。
(2)万が一被害に遭った場合の事後対応
ア 初動対応
即座に警察へ被害届を提出します。その際、車体番号や特徴、車内の積載物を正確に伝えられるよう、車検証のコピーをクラウド等に保管しておくことが重要です。
イ 二次被害の防止
ETCカード、クレジットカード、スマートフォンなどが車内にあった場合は、直ちに利用停止手続きを行います。
ウ 行政・保険手続き
運輸支局で「一時抹消登録」を行い、保険会社へ報告して保険金の請求手続きを進めます。
まとめ
2026年の自動車盗難対策は、個人の防犯意識の域を超えた、企業の「BCP(事業継続計画)」の重要項目です。
車両を失うことは、代替車両の確保に伴う業務の停滞、積載していた顧客情報の流出、そして「セキュリティが甘い企業」というレッテルを貼られることによる社会的信用の失墜など、経営に与えるダメージは甚大です。
経営者の皆様には、防犯対策を「コスト」ではなく「資産を守るための投資」として捉え直し、今すぐ「鉄壁の資産防衛」に着手されることを強くお勧めします。
今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。
西岡 敏成
ジェイエスティー顧問
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授
ジェイエスティーには危機管理エキスパートが複数在籍しております。
企業のセキュリティ対策やリスク管理コンサルティングはもちろん、個人情報保護や暴対法対策など、危機管理全般のご相談はジェイエスティーまで。