Column コラム

Vol.18【1つの事案でも影響力が大きい公益通報者保護法改正・セクハラ対策の重要性】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。


公益通報者保護法とは

企業における横領や食品偽装、情報の隠ぺいなどといった不正行為や不祥事を放置しておくことは、企業の存続に直接的な影響を及ぼすとともに、巻き込まれた人の生活を脅かすことにもつながり得ます。こういった不正事案が発覚するのは従業員など近しい関係者からの通報がきっかけである場合が大半です。
こうした発覚のきっかけとなる通報は“公益通報”と呼ばれており、善意で過ごしている国民の利益を保護することを目的としています。その公益に資する通報をした者が不利益な扱いを受けないように保護する法律が“公益通報者保護法”です。
公益通報に該当する事案の具体例を基に、公益通報者の保護を怠った場合の潜在的なリスクについて、弊社顧問である西岡敏成氏に話をうかがいました。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。

1:公益通報に該当する事案とは

消費者庁の「公益通報ハンドブック(改正法準拠版)」では、公益通報を以下のように定義しています。

「公益通報」とは、①労働者等が、②役務提供先の不正行為を、③不正の目的でなく、④一定の通報先に通報することをいいます。

|1.通報者
公益通報を行えるのは、全従業員であり、その範囲は勤務形態によらず広範にわたります。正社員はもちろん、派遣労働者やパート・アルバイト、さらには公務員や役員、取引先の従業員まで、不正行為や不祥事を目撃した際には公益通報を行うことが可能です。また、現在就労中の労働者だけではなく、退職後1年以内の元従業員も公益通報者としての資格を持つことができます。

|2. 役務提供元の不正行為
役務提供元とは労働者に業務を提供している事業者を指します。これは勤務先・派遣先・業務委託で請負契約を結んでいる取引先などで、労働者の立場によってどこが具体的な役務提供元にあたるのかは変わってきます。

不正に当てはまる行為とは「対象となる法律に違反し、刑罰もしくは罰金などの過料を科せられる行為、またはそれに繋がる行為」のことを指します。対象となる法律は、 “国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律”と定められており、公益通報者保護法で具体的に499本の法律が指定されています。(2023年6月1日時点)

|3.通報の目的
公益通報と見做されるための基準は、「公正な活動を前提とするものであるかどうか」であり、他人や企業に危害を与える意図で行われた通報は公益通報には該当しません。

|4. 通報先
通報先として「事業者内部」「行政機関」「その他事業者外部」の3つのカテゴリーが存在します。例えば、会社で設定された通報窓口や、権限を持つ行政機関、報道機関や消費者団体などが該当します。

 

2:企業の不正・不祥事が発覚するきっかけ

|1. 不正・不祥事が発覚する経路の多くは“内部通報”
企業の不正や不祥事が発覚するきっかけには、内部経由と外部経由それぞれ、以下のようなケースが代表的です。

企業内部からの発覚 企業外部からの発覚
従業員などからの通報 事件・事故の発生
監査部門による内部監査 報道(※)
日常的なチェック・報告 SNSなどによる情報拡散(※)
取引先・一般消費者からの情報 抗議活動(※)
従業員へのアンケート調査など 警察などの捜査機関による捜査(※)
外部の監査法人などによる外部監査 税務調査(※)
担当交代などで偶然に 行政機関の調査・検査など(※)

※の事由は、各機関・媒体への内部告発を含む。

前述の通り、通報による内部発覚が非常に多く、消費者庁の「平成28年度 民間事発者における内部通報制度の実態調査報告書」によると、内部通報による不正・不祥事の発覚は58.8%にも上っています。この傾向は世界的にも同じであり、世界で発生している組織内の不正を対象とし調査・集計するACFE(公認不正検査士協会)の「【2022年版】職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」でも、内部通報による不正の発覚が42%を占めています。

|2. 内部通報制度の重要性
不正や不祥事が明らかになるまでの期間が長くなるほど企業にとってのリスクは大きくなります。最終的に事件や事故の発生まで至ってから初めて不正が明るみに出たり、突如として外部から不正を告発されるようなケースだと、問題は一気に炎上し深刻化します。このような経緯での消費者や株主などからの信頼の失墜は深刻で、真摯な事後対応を行ったとしても信頼を取戻すまでには多大な時間と労力が必要となります。

このような事態を避けるためにも、社内で不正に対する情報を積極的に受け入れる姿勢を示し、通報者を保護しながら調査を行う内部通報制度を整備することが非常に重要です。公益通報者保護法が制定され、コンプライアンス遵守の流れが加速する中で、近年は内部通報制度を導入する企業も増加しています。

企業内部の自浄作用が働く場合、不正に関する情報を早期に把握できる可能性が高まり、問題の予防や早期対処につながります。これは発覚後の被害を軽減させるだけではなく、結果として企業価値の維持と向上にも寄与している点は再度認識が必要です。ACFEの調査結果においても、通報制度を持つ組織では不正の継続期間が短く、損失額も半分程度に抑えられていることが示されています。

 

3:公益通報者の保護を怠った場合のリスク

企業が公益通報者の保護を怠ると、結果として通報者が不利益な扱い(解雇や降格、部署異動や過酷な労働の押し付けなど)を受ける可能性が高まります。その場合、労働審判の手続きを申し立てや訴訟に繋がる恐れがあり、最終的に企業が大きな損害賠償責任を負う可能性も少なくありません。その他、行政処分を受けたり、刑事告発に発展するリスクも無視できません。

特に刑事告発にまで至った場合には、行政機関や報道機関で公表されます。仮に問題が1つだけだったとしても、SNSなどの普及により情報が広がりやすい現代社会では、様々な憶測が飛び交うことで1つの不祥事が収拾不能になり、連鎖的に影響が広がってしまいます。

LINEUP2では、公益通報者保護法の改正ポイントと共に、このような危機に陥らないための対策について解説します。

 


公益通報者保護法改正のポイントと対策

LINEUP1では、公益通報者保護法の概要と対策不足のリスクについてお伝えしました。LINEUP2では、2022年6月1日に施行された法改正のポイントと、ポイントごとの対策について、引き続き顧問西岡にお聞きしていきます。

1:内部通報に対応できる体制の義務化

従業員が300人を超える企業には、内部通報に適切に対応できる体制を整備することが義務付けられました。これに伴い、公益通報を受けて調査や是正を行う“公益通報対応業務従事者”を指定する事も義務付けられました。

不正の対策として最も重要なのは、社内に通報窓口を設けることです。不正・不祥事によるリスクを回避するには最初に情報を受け取る窓口が適正であり、迅速な調査や対応ができることが非常に大切です。適切な体制を社内に構築することで、外部からの公益通報によるダメージを軽減することが可能となります。

従業員が300人以下の事業所については努力義務とされていますが、危機に強い組織づくりを目指すためにも、全ての企業が能動的に取り組むべきでしょう。

 

2:守秘義務の遵守

公益通報を受けて社内調査を行う従業員に対し、厳格な守秘義務の遵守が求められるようになりました。通報者本人の同意があるといった正当な理由が存在する場合を除き、通報者を特定できる情報の漏洩は禁じられています。通報者の氏名や社員番号はもちろん複数の情報を組み合わせることで個人が特定できてしまう場合も、守秘義務違反の対象となります。
違反と認定された場合、30万円以下の罰金が科せられます。

これには通報者が周囲から被害を受けることを防ぐ目的があります。これまでの企業の体質や慣習として、通報者は企業の「反逆者」や「裏切者」とみなされる傾向がありました。旧態依然とした視点が今も一部の企業に残っている事は残念ながら否めません。

通報を行うと退職に追い込まれるなど、何かしらの報復を受けるという恐怖感があると、仮に不正を見つけたとしても通報まで行動を起こすことができません。企業のトップはこれが大きなリスクであることをよく理解し、自らが先陣を切って企業の意識を変えていく必要があります。

 

3:各所への通報における要件の緩和

公益通報者保護法では公益通報が理由で企業が通報者を不当に解雇した場合、その解雇を無効とすることができます。今回の法改正では、行政機関・報道機関などへ通報に関する要件が緩和されました。これにより不当な解雇と見なされて解雇が無効になるケースが増えることになります。

先にも述べたように不正行為や不祥事の情報は社内でいち早く察知し、大きな問題となる前に解決を図ることが大切です。これには、従業員がまずは社内の窓口に相談できるように、企業の環境を変えていかなくてはいけません。特に、全ての物事がトップダウンで行われている企業は危険です。下からの意見や情報がトップに届かないことで不平不満などが溜まりやすく外部に通報されるリスクが高くなります。物事の決断が自己中心的な基準に依らないように、組織改革を行っていく必要があります。

 

4:保護される範囲の拡大

法改正により保護される通報者の範囲・通報内容の範囲・保護内容の範囲がそれぞれ拡大されることになりました。

通報者についてはこれまで保護の範囲外だった役員や退職者まで保護対象となりました。通報内容については、刑罰対象となる事案の他に、過料の対象となる事案も公益通報に該当するようになりました。また、解雇や降格などの不利益な扱いからの保護に加え、企業が通報者に損害賠償を請求することも制限されるようになりました。

公益通報は国民の生命や身体、財産等の利益を守るために行われます。したがって、報告をしてくれる従業員は減点対象ではなく、加点対象であるという姿勢と認識を組織全体に浸透させ、不利益な扱いをさせない環境作りをすることが大切です。しかしながら「集団浅慮」という言葉があるように、集団で物事に対応すると判断が浅くなり、不合理な判断を下してしまうことはどうしても起こります。だからこそ経営陣が率先して意識改革を推し進めることで、結果として組織全体としてもコンプライアンスの改善に繋がっていくのだと思います。

 

まとめ

公益通報は、組織内の不正行為や不祥事に対するリスクの予防・早期発見のために非常に重要です。通報を行った従業員は公益通報者保護法によって、通報を理由とした不利益な扱いから守られており、企業は通報者の保護に努める義務があります。訴訟や行政処分、刑事告発に至る前に事態が手遅れとならないよう、今一度社内の体制を振り返り、万全の対策を行うようにしましょう。

 

 


企業が講じるべきハラスメント事案への適切な対応とは

昨今、ハラスメント事案への関心は非常に高く、2022年4月にはパワハラ防止法(※)の改正によって防止措置の義務化が全ての企業に適用されるなど、国を挙げての対策が進められています。その一方で大手芸能事務所において過去のセクハラ事案が大きな問題になるなど、ハラスメント事案の発生が後を絶ちません。
ハラスメント事案の中でも特に今回はセクハラ対して適切な対応を行わないと、どんなリスクが発生するのか、引き続き顧問西岡にお話をうかがいます。
※正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」

1:セクシュアルハラスメント(セクハラ)の概要と類型

セクハラとは意に反する性的な発言・行為によって、労働環境が著しい不利益を被ることです。これは異性間だけではなく同性間でも起こり得ます。セクハラは主に「対価型」と「環境型」の2つに分けられます。

対価型とは、性的な要求に対して何らかの対価を与えられるセクハラです。昇進や昇給といった優遇条件を対価とする場合もあれば、要求を拒否した見返りとして降格や不当な部署異動、解雇を行った場合も対価型に相当します。

一方の環境型とは、性的な発言や行為によって労働環境が害され、労働者のパフォーマンスなどが低下する現象を指します。これは日常的なものになりやすく、加害者にセクハラをしているという意識が薄くなりがちで、被害者本人はもちろん、周囲の従業員にも影響を与える恐れがあります。

 

2:企業で発生したハラスメント事案

過去に企業で発生したハラスメント事案には、以下のようなものがあります。

|1. 【対価型】セクハラ行為を拒否・抗議した従業員を解雇した会社に損害賠償命令
広告会社の代表者は、勤務時間中に事務所で女性従業員と二人だけになった際、体に触る、抱きつくなどの行為に及んだ。従業員が性的行為を拒否すると、代表者は威圧的な態度を取るようになり、さらに抗議をした従業員を解雇した。

解雇された従業員は慰謝料を求めて会社を提訴し、裁判所は損害賠償を会社に命じました。裁判所の判決では、この解雇は解雇権の乱用で違法なものであり、直接セクハラを行った代表者だけではなく、会社も連帯して責任を負うべきと言い渡しています。

|2. 【環境型】繰り返しのセクハラ行為により、職員を停職などの懲戒処分に
公的機関に所属する男性職員が約2年に亘り、同じ課の女性職員5人に不必要に体に触れるといった行為を繰り返していた。

この事案を受け、自治体は男性職員を停職の懲戒処分にしたと発表しました。また、男性職員の上司である4人の職員についても、管理監督責任を問うものとして厳重注意処分にしています。

|3. 【環境型】忘年会でセクハラ行為を煽る言動が起こり、裁判へ発展
生命保険会社に勤める男性社員3名は忘年会の席で、部下である保険外交員の女性7名に、抱きつく、押し倒すなどの性的行為を行った。

セクハラの被害にあった女性たちは、営業成績の低下に伴う逸失利益や精神的苦痛に対する損賠賠償を求めて会社を訴えました。しかしながらこの裁判では、被害者の方にもセクハラを煽るような言動もあったとして、損害賠償の減額も命じています。

これらの事例に見られるとおり、セクハラ事案は裁判に発展すし、加害者と会社の双方に対して責任追及されるものであることも分かります。

厚生労働省や法務省の報告(※)によると、令和元年のセクハラ相談件数は7,000件以上にも上り、実際に強制・強要事件として認められた件数は450件近くもあります。他社のセクハラ事案を他山の石とし、適正な対策を立てることが求められます。
※厚生労働省「令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」
※法務省「平成31年及び令和元年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)」

 

3:企業が講じるべき対策

|1. 問題を深刻化させない真摯な姿勢
セクハラやその他のハラスメント事案が発覚した際には、記者会見や調査委員会の立ち上げ、調査内容の公表などを迅速に行う必要があります。特に記者会見はビデオメッセージのような一方通行な手段ではなく、双方向の対話型形式で行うことが重要です。記者会見は自社では気づかない調査ポイントに気づける貴重な機会であると考えて、何時間でも向き合って質問に答え続けるという真摯な姿勢が重要です。

さらに世間に公表する情報に嘘偽が一切ないことを明確に示しましょう。組織にとって不利益な情報があったとしても、それが事実である以上は説明責任を果たさなければなりません。そこに嘘が1つでもあると、それは組織に隠蔽体質があると見なされてしまいます。そうなると人々の認識が、セクハラ事案に対する問題から組織に対する問題へとすり替わってしまい、結果として組織に対する信頼の失墜を招きます。

|2. ハラスメントを日常化させない環境作り
ハラスメントの日常化は非常に大きな問題です。ハラスメントを行う加害者には何かしらの動機やきっかけが存在します。そして、1度でもハラスメント行為に走ってしまうと、自己制御が難しくなるケースも少なくありません。そのためきっかけから行動に移させない環境を作ることが、ハラスメントを防ぐ大きな手段でとなります。

これには、ハラスメントを許さないという組織体制づくりが必要です。加害者が重要なポジションにいたとしても、問題は看過しないという強い意志を、トップから社内にも社外にも明確に示しましょう。就業規則にもその旨を記載し、根拠としておくことも有効な取り組みです。就業規則の再配布や定期的な呼びかけを通して、従業員に意識づけをしていくことで、組織の環境を変えていくことができます。

その他にも、上司や部下といった立場に関係なく、相手に呼びかける時には「さん」づけを徹底するといった、小さなルール変更も大きな効果を生みます。オープンスペースを設けるなど、穏やかな雰囲気で情報共有ができる環境も大切です。ハラスメント行為に出てしまいそうなきっかけを持つ従業員に“耳が痛い”と思わせることが、自制心に繋がります。

 

まとめ

セクハラといったハラスメント事案は、対応を誤ると大きな組織でも存続の危機に陥りかねません。問題が複雑化・長期化するのを防ぐためには、事案が発生してしまった時に迅速かつ真摯な対応が必要不可欠となります。そして、従業員にハラスメント行為をさせない環境作りも大切です。今一度、自社の危機管理体制に問題がないかを再検討してみてはいかがでしょうか。

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