Column コラム

Vol.19【危機管理の観点から考える企業が取り組むべきCSR】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。


企業として取り組むべきCSRの概要

企業はそれ単独で存在しているわけではなく、従業員や取引先をはじめとした様々な繋がりの中で成り立っています。そんな企業が社会的な存在として果たすべき責任とされているのが「CSR(企業の社会的責任)」です。企業が取り組むべきCSRはどのようなものなのか、危機管理という観点から取り組み事例も踏まえて解説をします。
企業がCSRに取り組む際に意識すべき点や考え方について、社会における企業の役割という視点も含め、弊社顧問である西岡敏成氏に話をうかがいます。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。

1:CSRで考えるべき3つの責任

CSRとは、企業が従業員や取引先及びあらゆる利害関係者(ステークホルダー)に対して、責任を持ち、社会全体へ貢献することを指しています。
果たすべき責任には以下の3種類が考えられます。

|1.経済的責任
継続的な利益を追求する事で、株主やステークホルダーに対する責任を果たす。コンプライアンスの遵守も、継続的に事業が存続するという観点で見ると経済的責任の一環と言える。

|2.社会的責任
地域社会とのかかわりや社会的な問題に対して働きかけを行う責任。福利厚生など従業員の労働環境の整備や、製品の安全性の確保なども含まれる。

|3.環境面での責任
環境へ配慮した商品の開発や、廃棄物の管理など、環境への負担を最小限にし、持続可能なビジネス形態の追求する責任。

 

2:CSRに関する7つの原則

CSRへの取り組み方として、国際標準機構によって定められた「ISO26000」というガイドラインが存在します。このガイドラインには企業に限らず、組織が社会的責任に関する取り組みを行う際に守るべき7つの原則を提案しています。

・説明責任…組織の活動が社会、経済、環境へ与える影響について、説明する責任を有しています。活動によって与える影響が大きいものほど責任の程度も大きくなるため、影響の程度を認識し、それに伴う説明ができるように備える必要があります。
まず、活動の影響を明確に評価しましょう。次に、透明性を確保するために影響に関する情報を整理し、正確かつ具体的に伝える体制を整えましょう。関係者との対話を重視し、影響を受ける関係者とのコミュニケーションを深めましょう。さらに、影響の状況や取り組みの進捗を定期的に報告することも重要です。最後に、影響が生じた場合に備え、危機管理体制を整備し、迅速かつ適切な対応を行いましょう。

・透明性…組織の方針や活動などについて、ステークホルダーなど第三者が正確に評価できるように、情報を開示することが求められます。この開示する情報はできる限り、タイムリーで事実に基づいた客観的な情報でなければなりません。信頼のおける情報について判断が可能となる充分な量を開示することで透明性が担保されます。

情報開示には以下の4点のポイントを意識しましょう。
①情報の量を十分に提供し、判断が可能な範囲で開示する
②開示する情報が事実に基づき正確性が保たれていることを確認する
③適切なタイミングで情報を開示する
④開示する情報を適切な形式や媒体で提供し、利害関係者がアクセスしやすい状態にする

・倫理的な行動…組織活動は公平・誠実・正直といった価値観に基づいていることが望まれます。倫理的な価値観に基づくことが、環境やステークホルダーへの利害に対して配慮を行うことに繋がります。
対策としては、組織全体で倫理的な価値観を共有し、行動規範を策定・周知することが重要です。また、組織内外のステークホルダーとのコミュニケーションを活発に行い、彼らの期待や懸念に真摯に向き合う姿勢を持つことも重要です。さらに、社内教育や研修を通じて倫理意識の向上を図り、組織のメンバーが倫理的な判断を行える能力を育成することも有効です。

・ステークホルダーの利害の尊重…組織活動にはステークホルダーの利害が尊重・配慮された対応が求められます。ステークホルダーとは株主だけではなく、取引先や消費者、従業員なども含まれます。各ステークホルダーの意見を把握し自社活動へ反映させていくことが望まれます。
まずは、積極的に意見を収集することが重要です。また、透明性を確保し、意思決定プロセスや組織の方針を開示することでステークホルダーの信頼を獲得します。さらに、定期的な対話や協力関係の構築を通じて、ステークホルダーとの良好な関係を築くことが大切です。

・法の支配の尊重…各国で定められている法令を尊重し遵守することが求められます。
対策としては、法令遵守を徹底するための内部体制を整えることが重要です。組織全体で法令を理解し、関係者に適切な教育や訓練を提供することで認識を浸透させます。さらに、法令の変更や新たな法規制に対しても敏感に情報を収集し、適切な対応を行うことが求められます。組織内でのコンプライアンス文化を醸成し、組織の価値観として徹底しましょう。

・国際行動規範の尊重…国で定められている法律だけではなく、国際的に通用している規範を尊重することが重要です。
国際法や国際的なガイドライン、条約などを把握し、それに基づいて組織の活動や意思決定を行いましょう。国際的な共通規範を尊重することは、組織の信頼性や持続可能性を高める一環となります。

・人権の尊重…重要かつ普遍的な人権というものをきちんと尊重していく必要があります。
対策としては、組織内で人権政策を策定し、人権侵害のリスクを評価・監視することが重要です。人権に関するガイドラインや国際的な規範に基づき、人権に対する影響を最小限に抑えるような活動を行いましょう。また、ステークホルダーや関係者との対話や協力も重要です。人権に配慮したサプライチェーンの確立や人権教育の推進など、具体的な取り組みを行うことで責任を果たせます。

基本的に人権の尊重などの国際行動規範は国内法に包括されているため矛盾は生じませんが、国内の社会情勢などで十分な法的措置が取られていない場合は、国内法の遵守のみならず国際的な行動規範に従って組織活動を行う必要があります。このため人権の尊重といった根本的な規範が守られているかという視点で柔軟な対応を企業は行っていく必要があると言えます。

 


CSRに関する取り組み事例

LINEUP1ではCSRで重視すべき「3つの責任」や「7つの原則」に関してお伝えしました。CSRでの考え方を知った上で、LINEUP2では実際のCSRへの取り組み事例を紹介しながら、CSRへ取り組むメリットや企業がどのような姿勢で取り組むべきなのかについて、引き続き顧問の西岡氏にお話をうかがいます。

1:CSRへ取り組むメリット

企業が社会的責任を果たすことによる最大のメリットは、社会からの信頼獲得につながるという点にあります。説明責任や透明性をもった活動を行うことにより、企業の評判やイメージが向上します。そして、顧客や社会からの信頼性が高まることにより、企業本来の目的である利益追求の取り組みにも寄与していきます。
またCSRにより労働環境の整備が十分に整っていることで人材採用や定着及び、従業員のモチベーションの向上にも繋がります。人材採用に繋がった企業の取り組みとして、ある鉄鋼会社が広大な会社の敷地を地域住民向けに開放し、マーケットなどの催し物の会場とすることで地域コミュニティの形成に貢献した事例があります。結果的に長年の取り組みにより地域コミュニティとの繋がりが強固なものとなり、会社近辺の地域住民から人材の確保などもできるようになりました。

社会的責任を果たすことによる社会からの信頼獲得やステークホルダーとの関係性の強化が、最終的に企業の利益追求の活動を円滑にし、人材確保など様々な観点におけるメリットに繋がります。

 

2:企業におけるCSRの取り組み事例

|1.<大規模企業の事例>大手タイヤメーカー
東京に本社を置く大手タイヤメーカーでは3つの重点領域である「モビリティ」「一人ひとりの生活」「環境」を包括した「Bridgestone E8 Commitment」を企業コミットメントとして掲げてCSRの活動を行っています。

具体的な取り組みとしては子どもたちへの自転車安全教育や交通安全活動、地域社会への取り組みとして日本国内への災害復興支援、環境面では森林整備活動として「エコピアの森」プロジェクトや、琵琶湖の環境保全を目的とした「びわ湖生命(いのち)の水プロジェクト」などに取り組んでいます。

|2. <中小企業の事例>フットサルブランドの企画や販売などを行う企業
東京都内にあるフットサル関連のスポーツブランドを運営する企業では、不当な労働条件下での労働や児童労働の禁止を目的として、適正な賃金のもと児童が携わらずに制作されたフェアトレードによるボールの生産を行っています。ボール生産を行っている国外の工場では国際労働機関の規定に基づいたモニタリングを実施しており、適正な労働環境の整備に努めています。

 

3:自社でCSRについて取り組む際の姿勢

CSRに取り組む際の考え方として「攻めのCSR」と「守りのCSR」のバランスを考えることが重要になります。「攻めのCSR」は自社ならでは自社特性を生かした付加価値を生むような取り組みのことを指します。先の事例で考えると大手タイヤメーカーにおける安全教室や環境面への取り組みなど社会貢献活動により社会的な不満や懸念を解消する取り組みなどが挙げられます。一方で「守りのCSR」はそれを行わなければ企業のリスクとなりうるような取り組みを指します。コンプライアンスやリスクマネジメントなどが該当します。上記の事例ではフットサル関連の企業が行っていた不正労働の禁止なども「守りのCSR」と言えるでしょう。不正労働が発覚した場合、企業や事業の存続に影響を与えかねません。
上記のことから、CSRへ取り組む際にはまず自社の特性を生かすことのできる「攻めのCSR」について取り組み一方で、リスクマネジメントとして「守りのCSR」にも同様に取り組む必要があります。

LINE UP3では危機管理の観点から「守りのCSR」に焦点を当てて解説を行います。


危機管理の視点から考えるCSR

LINE UP2で見たように企業の事業存続のためには「守りのCSR」に取り組むことが重要となります。 ガイドラインである「ISO26000」によって定められている7つの中核主題にそって危機管理の視点から取り組むべき施策について解説します。

1:7つの社会的責任の中核主題

ガイドラインである「ISO26000」において、社会的責任には7つの中核主題が設定されています。
・組織統治(ガバナンス)
・人権
・労働慣行
・環境
・公正な事業慣行
・消費者課題
・コミュニティへの参画及びコミュニティの発展
これらの中核主題は世界的な基準で設定されているため、日本国内での状況と比較するとイメージしづらい部分もありますが、この主題すべてに等しく取り組むのではなく、各組織での関連性や重要性を判断した上で取り組むことが望ましいです。
その中でも多くの企業に共通する注意点について危機管理の視点から解説します。

 

2:危機管理の視点から取り組むべきテーマ

|1.組織統治(コンプライアンス)
会社組織として適切な意思決定の仕組みが構築されていることが重要です。不十分な意思決定の仕組みでは、トップの行動方針が明確に伝わらず、従業員が企業の意図に反する活動を行ってしまう可能性があります。したがって、意思決定の仕組みづくりを通じてガバナンスを確保することが重要です。
同様に、法規範の尊重に関する原則に基づいて、法令や規範を順守しながら健全な企業活動を行うことが必要になります。法令違反などが発生すれば企業活動に影響を与える可能性があります。取引や雇用に関連する法律などのチェック体制を整え、十分なコンプライアンス対応ができるよう取り組んでいきましょう。

|2. 労働慣行(ハラスメント)
労働慣行の観点から、従業員に対するハラスメントへの対策を構築することが重要です。ハラスメントにはパワーハラスメントやカスタマーハラスメント、セクシャルハラスメントなど多様な種類があります。社内にハラスメントに対応する体制が整っていない場合、従業員の退職や企業の信頼問題、場合によっては訴訟まで発展することが想定されます。
また、社内だけの従業員間におけるハラスメントではなく、カスタマーハラスメントなど対外的な関係でもハラスメントは起こり得ます。
社内でハラスメントに対する対策方針を立て、それを明確に提示し、ハラスメントに関する有効な相談窓口を設置することが望まれます。

|3.人権(差別)
多様化が進む現代社会では、様々なバックグラウンドをもった人々が共に働くことが当たり前になってきています。このような状況で重要性を増すのが人権の尊重です。特に、企業が日本人以外との活動をする可能性がある場合は、人権の尊重が一層緊急度の高い課題となります。従業員が互いの人権を尊重しながら働く環境を作るためには、そもそも人権に関する基本的な内容を社内教育の一環として取り扱い、リテラシーの向上に努める必要があります。人権に対してきちんと取り組むと、結果として、従業員の働きやすさや働き甲斐が高まり、より円滑な企業活動にもつながります。

|4. 公正な事業慣行(内部通報)
7つの原則の1つである「倫理的な行動」は、企業において不正行為を防ぐための重要なポイントです。不正行為が明るみに出ると、企業への信頼が低下し、事業活動にも大きな影響を及ぼします。このような事態を避けるためには、内部通報の体制を整えることが重要です。2022年に改正された公益通報者保護法により、不正行為の告発がより容易になる方向に法整備が進みました。

まとめ

CSRは「企業の社会的的責任」と訳されますが、「社会における企業の役割」と置き換えて、自社が社会に対してどのような取り組みを行えるかを考えていくことが重要です。企業は当然利益追求を重要な目的としていますが、それだけでは円滑な企業活動は出来ません。社会貢献を含めたCSRの取り組みを行うことで、ステークホルダーや社会からの信頼を獲得し、利益追求をしていくための土台が築かれるのです。
グローバル化や多様性が重視される現代社会において、自社の企業価値を高めるためにも、CSRの観点から何ができるのかを考える事が重要です。CSRは自社の持つ価値を発揮し、社会との共存共栄を図るための視点となり得ます。自社の取り組みを振り返り、より良い社会貢献を実現するきっかけとしていただけたら何よりです。

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