Column コラム

Vol.38【忍び寄る「デジタルギャンブル」の闇 ~企業を蝕むオンラインカジノの脅威とその対策~】

はじめに

インターネットとスマートフォンの普及は、私たちの生活を豊かにする一方で、「オンラインカジノ」という新たなリスクも生み出しました。 手軽さ、匿名性、そして24時間利用可能という特性から、その利用者は急増しています。 「たかがギャンブル」と軽視してはいけません。 社員がオンラインカジノにのめり込むことは、企業にとって計り知れない損害をもたらしかねません。 個人の財産破綻だけでなく、業務への支障、情報漏洩、さらには犯罪行為への加担など、その影響は多岐にわたります。 本コラムでは、オンラインカジノの危険性を解説し、企業が社員を守り、事業継続性を確保するための危機管理について具体的に提言します。


オンラインカジノのルーレットとサイコロ

1 「デジタルギャンブル」の正体と、社員を蝕むメカニズム

(1)知られざる「オンラインカジノ」の闇

オンラインカジノとは、インターネットを通じて金銭を賭けて行われるギャンブル全般を指します。 スロット、ポーカー、ルーレットなど、実際のカジノと同様のゲームがオンライン上で提供されており、その多くは海外にサーバー(胴元サーバー)を置いて運営されています。 しかし、重要なのは、日本国内においては、オンラインカジノへの参加は賭博罪に抵触する違法行為であるという点です。 たとえ海外のサーバーで運営されていても、日本国内からアクセスし、金銭を賭ける行為は処罰の対象となります。

 

(2)なぜ、オンラインカジノはここまで拡大するのか? その危険な誘惑

オンラインカジノの利用者が急増している背景には、極めて高い利便性と巧妙な誘導があります。

 

ア 24時間いつでも、どこでも利用可能な利便性

スマートフォンさえあれば、場所を選ばず、瞬時にアクセスでき、「24時間いつでも、どこでも利用可能」である点です。 また、1回のゲームが短時間で決着し、何度でも繰り返しプレイできるため、「一攫千金」を狙えるという幻想を抱かせ、利用者は次々と金銭を投じてしまいます。

 

イ 利用者データを悪用した巧妙な勧誘

オンラインカジノ事業者は、利用者のスマートフォンのデータ(給料日、位置情報、家族構成、サイトへのアクセス数、プレイ時間など)を常時監視し、日々の行動をプロファイリングしていると考えられます。 これにより、利用者の属性や嗜好に合わせた巧みな勧誘が行われ、初回ボーナスや無料で遊べるなどの誘い文句で利用ハードルを下げ、段階的に高額な賭けへと誘導していきます。 コロナ禍における在宅時間の増加も、手軽にアクセスできるオンラインギャンブルとして、その拡散に拍車をかけました。

 

ウ 著名人の事例と利用者の急増

実際に、オンラインカジノの利用経験者は336.8万人に上り、国内での掛け金は年間1兆2422億円にも達すると言われています。 2024年の検挙数は、前年比2.6倍の279人に上り、芸人やタレントやオリンピックメダリスト、プロ野球選手などの逮捕といった事例も相次いでいます。 コンテンツが身近に存在し、違法であるという認識が薄いままに、利用者は増加の一途を辿っているのが現状です。

 

(3)避けられない「金銭的破綻」と「犯罪への連鎖」

オンラインカジノにのめり込んだ結果、利用者を待ち受けるのは、圧倒的な金銭的損失です。 システムが相手であるオンラインカジノは、運営側に有利な設定が可能であり、利用者が勝つことは極めて困難です。 たとえ一時的に勝ったとしても、出金拒否されるケースも頻繁に報告されています。 また、個人データが事業者側に蓄積され、プロファイリングされることで、さらなる高額な賭けへと巧妙に誘導され、結果として金を失いやすい構造になっています。

そして、その先にあるのが「依存症」です。 オンラインカジノは、その手軽さ、短時間での決着、ギャンブル性の高さから、従来のギャンブルよりもはるかに速い速度で依存症に陥りやすい特性を持っています。 依存症に陥ると、日常生活や仕事に支障をきたすだけでなく、借金返済のために、窃盗、横領、詐欺などの他の犯罪行為に手を染めてしまうという深刻な事態に発展する可能性も十分に考えられます。 社員がこのような状況に陥ることは、企業にとっての「信用」と「ブランドイメージ」を著しく損なうだけでなく、業務上のリスク、例えば顧客情報の流出や会社の金銭的損失など、計り知れない損害をもたらすことになります。

RISKと書かれたブロックとビジネスマンのフィギュア

2 企業にとっての「オンラインカジノ」がもたらす具体的リスク

(1)企業秘密の漏洩、情報セキュリティの脅威

社員がオンラインカジノに深く関与することは、情報セキュリティ上の大きな脅威となります。 オンラインカジノサイトへのアクセスは、悪質なマルウェアやスパイウェアの感染経路となることがあり、社員のスマートフォンやパソコンが感染すれば、企業の機密情報や顧客情報が外部に漏洩するリスクが高まります。 特に、オンラインカジノ事業者が利用者の詳細なデータを収集していることを考えると、個人情報のみならず、勤務先の情報や業務に関連するデータが把握され、悪用される可能性も否定できません。 また、借金返済のために犯罪に手を染めた社員が、会社のシステムに不正アクセスを行い、機密情報を盗み出す、あるいは社内ネットワークにウイルスを仕込むといったサイバー犯罪に加担するリスクも考慮しなければなりません。 情報漏洩は、企業の社会的信用を失墜させ、多額の損害賠償責任を負う可能性もあるため、非常に深刻な問題です。

 

(2)業務効率の低下、ハラスメント問題への発展

オンラインカジノ依存症に陥った社員は、仕事への集中力を著しく欠くようになります。 業務時間中に隠れてプレイしたり、ギャンブルのことで頭がいっぱいになり、本来の業務がおろそかになる、ミスが増える、締め切りを守れないといった事態が頻繁に発生するでしょう。 結果として、業務効率が低下し、他の社員への負担が増大します。

さらに、借金に追われ精神的に不安定になった社員は、周囲の社員に対して攻撃的な言動をとったり、金銭を無心したりするなど、ハラスメント問題に発展する可能性も懸念されます。 これは、職場の人間関係を悪化させ、チーム全体の士気を低下させるだけでなく、企業の良好な職場環境を損なうことにも繋がります。

 

(3)企業の社会的信用の失墜、ブランドイメージの毀損

社員がオンラインカジノに関連する事件や犯罪に関与した場合、その事実が公になれば、企業の社会的信用は大きく傷つきます。 たとえ社員個人の行為であったとしても、「〇〇社の社員が…」という報道は、企業のブランドイメージを著しく毀損し、顧客や取引先からの信頼を失うことにも繋がります。 企業のイメージダウンは、採用活動にも悪影響を及ぼし、優秀な人材の確保が困難になる可能性も考えられます。

スーツ姿の人物が両手で人の形をした紙を守っている

3 社員を守り、企業を守るための危機管理

(1)「オンラインカジノは違法」であることの徹底周知と啓発活動

企業としてまず取り組むべきは、オンラインカジノが日本国内においては違法行為であるという事実を、社員全員に徹底して周知することです。 多くの社員が、オンラインカジノの違法性を正しく認識していない現状があるため、啓発活動を強化する必要があります。

具体的な啓発活動

  • 社内研修の実施
  • 社内規定への明記(就業規則やコンプライアンス規程に懲戒処分の対象となり得ることを明記)
  • 情報提供と注意喚起(社内ポータルサイトや掲示板、社内報などで継続的に発信)
  • 相談窓口の設置(産業医、カウンセラー、外部専門機関など)

これらの取り組みを通じて、社員一人ひとりがオンラインカジノの危険性を認識し、安易に手を出さないよう意識改革を促すことが重要です。

 

(2)早期発見・早期対応のための職場環境と相談体制の整備

オンラインカジノによる問題は、早期に発見し、適切な対応をとることが被害を最小限に抑える上で不可欠です。 管理職は、部下の行動や言動の変化に常に気を配り、異変を察知した場合には、一人で抱え込まず、人事部門や産業医などの関係部署と連携して情報共有する体制を整えます。 また、ストレスチェックや定期的な面談を通じて、社員の精神状態や生活状況を把握し、オンラインカジノへの依存の兆候がないかを確認します。 匿名での相談も可能な外部相談窓口(ギャンブル依存症に関する専門機関など)の情報を積極的に提供し、社員が孤立しないようサポート体制を構築することも重要です。

 

(3)万が一の事態に備えた企業としての危機管理計画の策定

オンラインカジノの問題は、個人の問題に留まらず、企業全体の危機管理として捉える必要があります。 情報セキュリティ対策を強化し、社内ネットワークの監視、不正アクセス対策、マルウェア対策を常に最新の状態に保ちます。 社員がオンラインカジノに関連する事件に巻き込まれた場合、迅速かつ適切に対応できるよう、法務部門と人事部門が密に連携し、対応フローを事前に策定しておきます。 懲戒処分の基準や、刑事事件に発展した場合の対応、再発防止策などを具体的に定めておくことが重要です。

また、万が一、社員がオンラインカジノに関連する不祥事を起こし、それが公になった場合の広報対応を事前に準備しておきます。 事実関係の把握、メディア対応、ステークホルダーへの説明など、危機発生時の広報戦略を策定しておくことで、企業イメージの毀損を最小限に抑えることができます。

 

まとめ

オンラインカジノは、現代社会に潜む新たな「デジタルギャンブル」の闇であり、その脅威は企業にとって看過できないレベルに達しています。 手軽さ故の依存性、そして違法性への認識不足は、社員の人生を狂わせ、ひいては企業の存続をも脅かす可能性があります。

中小企業であるからこそ、社員一人ひとりの影響が大きく、この問題への対応は喫緊の課題と言えるでしょう。 本コラムが、皆様の企業における危機管理の一助となり、社員を守り、企業を守るための具体的な行動に繋がることを心より願っております。

 

今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。

西岡 敏成
ジェイエスティー顧問
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授

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