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Vol.40 採用リスク:「無料掲載」を謳う求人広告詐欺の巧妙な手口と防御策

ディスカッションをしているビジネスパーソン

採用リスク:「無料掲載」を謳う求人広告詐欺の巧妙な手口と防御策

はじめに

優秀な人材の確保は、事業成長に不可欠な経営課題です。しかし近年、その採用活動に付け込む形で、巧妙な「求人広告詐欺」が急増しています。

「掲載料は一切無料です」「必ず採用に繋げます」「今だけの限定プランです」。こうした甘言に乗り、気づけば高額な違約金を請求されたり、自社の意図しない不適切な求人情報が掲載されたりする被害が後を絶ちません。このような被害は、金銭的損失のみならず、企業の社会的信用を失墜させ、経営基盤に深刻なダメージを与えかねません。

本稿では、求人広告詐欺の巧妙な手口を解剖し、被害に遭いやすい企業の特徴を分析した上で、具体的な防御策を詳述します。本稿が、貴社の採用活動を詐欺被害から守り、安全かつ効果的なものとするための一助となれば幸いです。


1.求人広告詐欺の脅威と手口

(1)詐欺の現状

求人広告詐欺は、企業の人材不足や採用難という経営課題に付け込む形で増加しています。特に、広告予算が限られ、採用に関する専門知識を持つ担当者が不在がちな中小企業は、主要なターゲットとされています。その手口は年々巧妙化しており、一見しただけでは正規のサービスと見分けるのが困難なケースも少なくありません。被害額は数十万円から数百万に上ることもあり、経営への打撃は深刻です。

(2)具体的な詐欺手口

手口は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下の3つが挙げられます。

  • ア.「成果報酬型」を謳った高額請求
    「掲載は無料、採用成功時にのみ費用が発生します」と成果報酬型を強調し、契約を急がせる手口です。しかし、契約期間終了時に高額な解約料や事務手数料を請求したり、契約前に「初期登録費用」などの名目で少額を徴収した後、連絡が途絶えたりするケースが報告されています。
  • イ.虚偽の実績提示による信用誘導
    「多くの大手企業様にもご利用いただいています」「掲載後、即座に優秀な人材から応募が殺到します」といった、根拠のない成功事例や虚偽の掲載実績を提示し、信用させようとします。著名な求人サイトの名称を一部変更したり、ロゴを模倣したりして、優良誤認を誘う手口も横行しています。
  • ウ.無断での広告掲載と一方的な費用請求
    企業の公式サイト等から採用情報を無断で盗用し、自社が運営する求人サイトに掲載します。その後、「広告を掲載しましたので料金をお支払いください」と一方的に請求してくる手口です。企業側は依頼した事実がないため詐欺だと気づきますが、高圧的な態度で支払いを強要され、深刻なトラブルに発展しがちです。

契約書を確認する人物

2.標的となりやすい企業と悪質業者の見抜き方

(1)ターゲットにされやすい企業の特徴

求人広告詐欺の標的となりやすい企業には、以下の共通点が見られます。

  • 人材不足に深刻な課題を抱えている企業
    採用への焦りから、提案内容を吟味する冷静な判断力を失いがちです。
  • 求人広告に関する知見が不足している企業
    料金相場や契約内容に関する知識がないため、業者の言いなりになりやすい傾向があります。
  • 採用担当者が一人である企業
    複数人によるチェック体制が機能せず、詐欺を見抜く機会を逸するリスクが高まります。
  • 経営者が直接対応している中小企業
    専門部署がない場合、多忙な業務の傍らで採用活動を担うため、契約内容の精査が不十分になることがあります。

(2)悪質業者を見抜くためのチェックポイント

詐欺被害を未然に防ぐには、契約前の段階で悪質業者を峻別することが極めて重要です。以下の点に一つでも該当する場合、契約は見送るべきです。

  • ☑️ 非現実的な好条件を提示してくる
    「無料掲載」「採用保証」など、市場の相場から著しく乖離した好条件を提示する場合は、その裏を疑う必要があります。
  • ☑️ 拙速な契約を強要してくる
    「本日中の契約限定の割引です」などと、検討の時間を与えずに契約を急がせるのは、悪質業者の常套手段です。
  • ☑️ 運営元の情報が不透明である
    公式サイトが存在しない、あるいは会社概要や所在地の記載が曖昧な業者は、極めて危険です。
  • ☑️ 客観的な実績や評判が確認できない
    掲載実績の開示を拒んだり、検索すると悪評やトラブルに関する口コミが多数見つかったりする場合は、取引すべきではありません。
  • ☑️ 契約書の内容が著しく一方的である
    解約条項が不明確、または法外な違約金が設定されているなど、自社に不利な内容が含まれている場合は、契約前に必ず弁護士などの専門家によるリーガルチェックを実施してください。

頭を抱えるビジネスウーマン

3.被害発生時の対処法

(1)万が一の際の緊急対応

求人広告詐欺の被害に遭ってしまった場合でも、冷静かつ迅速な対応が事態の改善に繋がります。

  1. 証拠の保全: 契約書や請求書はもちろん、メールやFAX、通話録音など、業者との全てのやり取りを証拠として確保してください。
  2. 支払い停止の検討: 既に支払い済みの場合でも、銀行やクレジットカード会社に詐欺被害を報告し、支払停止を要請できる可能性があります。
  3. 専門機関への相談: 消費者庁、警察、弁護士といった専門機関へ速やかに相談し、今後の対応について助言を求めてください。特に、契約解除や損害賠償を求める場合は、弁護士への相談が不可欠です。

(2)取るべき行動と禁止事項

パニックに陥り、不適切な行動を取ると状況が悪化する恐れがあります。

禁止事項:

  • 感情的な交渉: 業者を刺激し、さらなるトラブルを誘発する危険性があります。
  • 安易な支払い: 一度支払うと返金は極めて困難になり、さらなる請求を受ける「カモ」と見なされるリスクがあります。

推奨行動:

  • 事実関係の整理: いつ、誰と、どのようなやり取りをしたか、時系列で客観的に記録してください。
  • 複数専門家への相談: 複数の専門家から意見を求めることで、最善の対応策を見出すことができます。

4.法的措置と恒久的な未然防止策

(1)法的措置の根拠

求人広告詐欺は、以下の法律に抵触する犯罪行為です。

  • 詐欺罪(刑法第246条):人を欺く行為により金銭等をだまし取る行為です。
  • 消費者契約法:事業者の不当な勧誘から消費者を保護する法律で、企業間の取引でも適用される場合があります。
  • 景品表示法:虚偽の実績を提示するなど、不当な表示で顧客を誘引する行為を禁じています。

これらの法律を根拠に、業者に対して断固たる法的措置を取ることが可能です。

(2)恒久的な未然防止策

そして最も重要なのは、被害に遭わないための恒久的な対策を組織内に構築することです。

  • 担当者間での情報共有の徹底: 担当者一人に判断を委ねず、必ず複数人で情報を精査し、リスクをチェックする体制を構築してください。
  • 契約プロセスの厳格化: 契約書の内容(サービス、料金、期間、解約条件等)を細部まで確認・理解し、少しでも不明な点があれば、相手方に説明を求めることを徹底してください。
  • 全記録の保存: 面談や電話の内容は議事録に残し、全ての通信記録を保存するルールを定めてください。
  • 採用リテラシーの向上: 定期的にセミナーに参加するなど、採用に関する知識をアップデートし、業者選定の目を養うことが重要です。

まとめ

求人広告詐欺は、多様化・巧妙化する手口で企業の大切な資産を狙う深刻な脅威です。しかし、正しい知識と防御策を講じることで、被害は未然に防ぐことが可能です。本稿で解説した内容を基に、「安易に信用しない」「独断で判断しない」「迷わず専門家に相談する」という3つの鉄則を徹底してください。安全な採用活動の実現は、企業の持続的な成長に不可欠な基盤です。このコラムが、皆様の採用活動の一助となることを願っています。

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